風の巻 8 [現代詩]
風に聞いてくれ
何故かは、風に聞いてくれ
とにかく、十三夜
石女は児を身ごもった
何故かは、風に聞いてくれ
満月の夜、石女が児を産んだ
(石女は、差別的な言葉ですが、
石女の年は?誰の子を身ごもった?
という俗なことは、風に効かないでくれ)
石女の産んだ児は
五体満足であったが
喜怒哀楽のない児であった
何故かは、風に聞いてくれ
石女は児を産むと
仏になった
そして、十六夜
石女の産んだ児も
仏になった
何故、仏になったかは
風に聞かなくとも
自明の理
問題は十四夜
石女はその日何をしていたか
誰か知っていたら教えておくれ
風の巻 7 [現代詩]
スーパームーン
私ごとで恐縮ですが
月が満ち欠けしなくなって
一昨日も昨日も今日も満月なんです
一昨日は三十歳で自死した息子の月命日で
昨日は妻が階段から落ちて
今日、手首の骨折で入院しました
妻は七十七歳、喜の字の祝をしたのが
一昨日の前の夜で、その日は
珍しく秋晴で、三日月でした
変わったことといったら
その日から小春日が続いてることぐらいです
私の地方では考えられない毎日です
私と妻は二人暮らしで
妻の退院まで私は一人暮らしで
その不安、寂しさ、不自由さは
人様にも世の中にも関係ないですが
この話は、私の妄想、そして真実です
ところで、明日は近さ六十八年ぶりの
『スーパームーン』で
天気予報は曇りです
これは事実です
風の巻 6 [現代詩]
死ぬなよ―自死した息子に
死ぬなよ
晴れた夏の日に
死ぬなよ
雨の降る秋の日に
死ぬなよ
雪の降る冬の日に
死ぬなよ
曇りの春の日に
生きるためとはいえ
あなたは何故、
行年三十歳
母親の古希の祝いの年に
両親に先立ち
あの世に行ってしまったのだ
息子よ
あの世では死ぬなよ
風の巻 5 [現代詩]
風は冷たくないか
オヤジ元気か
七十五歳のオヤジにとって
風は冷たくないか
オヤジ安心してくれ
オレが三十歳で死を選んだのは
正解だった
あれから七年が経過したが
オレは永遠を手に入れ
三十歳のまま年を取らずに死を生きている
オヤジ元気か
酒を飲むことで、生を
生きているオヤジをオレは尊敬している
オヤジ風が冷たくとも
寿命が縮まるような
酒の飲み方だけはしないでくれ
オヤジ百歳までは
生きるよう、歳なんだから
上手に酒を飲んでくれ
オヤジ、オレは待っている
天寿を全うした
オヤジに会えるのを
そして千年も万年も
そんなオヤジと共に
オレは生きたい
風の巻 4 [現代詩]
H君 ありがとう
H君
お元気ですか?
君が自死して7年が経過しました。
君が生きるために
死を選んだのは正解でしたか?
私は75歳になりましたが
君は30歳のまま年を取らずに
私の心の中で生きてます。
死の世界の住み心地はいかがですか?
君が生きるために、死を選んだのは
正しかった、と私は信じてます。
ところで、死の世界でも
君は年を取らずに、永遠に
30歳のまま死を生きてるのでしょうか?
H君
親としての私の唯一の生き方は
君を供養するために、生の世界に
命尽きるまで生きることです。
君が死を選んだことで
親としての私は、生きるために
死を選ぶことが出来なくなりました
H君
ありがとう
私の心の中で、君は30歳のまま
私の寿命尽きるまで、君は生きてます。